185.食べたいものは足りないもの(2004.9.13掲載)
食品が持つさまざまな味には、体が要求する物質のマーカーとしての役割がある。 例えば塩からさは細胞に不可欠なナトリウムのマーカー。スポーツで汗をかいて体の塩分が流出した時、脳はナトリウムを補充すべく「しょっぱいものが食べたい」という指令を出す。同様に旨味はたんぱく質を作るアミノ酸のマーカー、甘味はエネルギー源である糖分のマーカー。 つまり食べたいものは足りないもの。だしの効いた旨いうどんをすすりたいと思う夜は、体がアミノ酸を求める夜なのだ。 そんな大切な情報を持つ食品の味がわからなくなる、「味覚障害」の患者が急増中だという。1992年に14万人だった患者数が、2003年には24万人に増加。そして、その原因の6割が亜鉛不足だと言われている。 ファーストフードの発達や個食化の影響で、人々は亜鉛を含む食品を摂らなくなり、おまけに加工食品の氾濫で、亜鉛を体外に排出してしまうポリリン酸やフィチン酸などの添加物を摂取する機会が増えてしまったのだ。 では何を食べればいいのか。亜鉛を多く含む食品は、カキ、アワビ、煮干し、豚レバーなどだが、気軽に摂れそうなものは少ない。欠乏症が味覚障害なんだからマーカーの付けようもない。 そこで登場するのが「食べたいものは足りないもの」という発想。味覚障害患者の食生活を調査したところ、多くの患者に共通して足りないものは果物だった。特別に亜鉛が多い果物はないが、ほとんどの果物がミネラルを豊富に含み、栄養バランスも完璧。「毎日果物200g運動」ってのもあるくらいだから、1日1個の果物は不老長寿の秘薬に違いない。 作家の太宰治先生は、「エロスとは、自分にないものを相手に求めることだ」と語っていた。秋の夜長、毎日200gの果物を食べ、足りないものを補っていきたいと思った。
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