189.ゼロの焦点(2004.10.12掲載)
先日、特許申請でお世話になっている弁理士の先生に、弁理士資格取得の苦労話をお伺いする機会があった。先生は、面接試験で「これこれこういう法律はありませんね」と質問されるのが一番キツかったと語ってくれた。確かに、全てを知っていなければ「ありません」と言い切ることはできない。結果、特許法を丸暗記する羽目になったらしい。 ゼロの証明は難しいのである。 ゼロ証明の難しさは、食品成分の分析でもしょっちゅう直面する問題である。どんな成分をどんなに優れた機器で分析しても、ゼロという結果はなかなか出せない。書類上は「検出限界以下」とか「trace(痕跡程度)」なんて中途半端な表現になる。つまり、「ないとは思いますけど、ゼロって言い切るのはちょっと…。ま、機械にも限界がありますから」てな逆ギレ含みの報告書が上がってくるのである。 このあおりを受けているのが巷に溢れる「ノンシュガー」や「カロリーゼロ」商品。分析機器の限界を考慮し、法律上は糖類が製品100g中に0.5g未満なら「ノンシュガー」と謳えるし、同様に5キロカロリー未満なら「カロリーゼロ」と表示しても問題ない。つまり、カロリーゼロのスポーツドリンク500mlをさわやかに飲み干した時、実は約25キロカロリーをしっかり摂取していた、なんて可能性もあるわけだ。 ゼロの表示は怪しいのである。 数学史上最大の事件と言われるゼロの発見は6世紀頃のインドでなされた。1988年、そのインドに即席袋麺を売り込んだ日清食品は、インドの家庭にはどんぶりがゼロという壁にぶち当たり、一時撤退した。 ゼロの文化は厳しいのである。
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