199.みんなの都合(2004.12.20掲載)
食文化の地域性が形成される背景には、さまざまな文化人類学的要因が介在するが、その時々の都合を優先し、単純なきっかけでそうなってしまった場合も意外と多い。 「大将の都合」 醤油の濃口と薄口、お雑煮の角餅と丸餅、日清どん兵衛の東版と西版など、関ヶ原を境界線にして東西に分かれる食文化は多い。すなわち天下分け目の食文化。直接的な因果関係はないかもしれないが、家康と秀吉という両大将が睨み合った都合が、後生の食文化に影響を与えていることは間違いない。 「からだの都合」 厚生労働省は、1日あたりの塩分摂取量を10g以下に抑えるよう指導しているが、東北地方は1日15gをぶっちぎる高塩分地域。漬物を中心とした高塩分保存食をよく食べるという食事情もあるが、「動物性タンパク質が不足すると塩分摂取量が増える」というからだの都合がラット実験で証明された。 すなわち、米どころの東北地方の食事はどうしてもご飯中心となり、動物性タンパク質の摂取量が落ち、からだが塩分を求める。逆に、豚肉とかつお節を中心とした動物性タンパク質の摂取量が多い沖縄県は、塩分の摂取量が日本一少ない。 「メーカーの都合」 全国を旅するとわかるが、醤油の味は東京から離れるほど甘くなる。北海道は砂糖の甘さ、九州は甘草(甘味料)の甘さというように甘味の質に違いはあるが、とにかく端に行くほど醤油は甘くなる。 これは醤油メーカーの都合。太平洋戦争下、醤油の供給量が不足した時、ある醤油メーカーが本醸造醤油に砂糖やアミノ酸を入れて増量する「新式醤油」なる代替品を開発した。これを地方送りの醤油とし、純粋な「本醸造醤油」は優先的に関東で消費したのだ。だから東京から離れるほど醤油が足りなくなり、端っこの醤油は増量剤が増えて甘くなったのである。 知らない土地に行った時、その地域の味の傾向を知るには味噌汁と醤油が一番だと言われている。初めて鹿児島を旅した20年前、甘い味噌汁と甘い醤油に驚いた。 「キッコーマンあります」という店の貼り紙の意味がよくわかった。
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