214.離陸と着陸(2005.4.11掲載)
飛行機の操縦で一番難しいのは、言うまでもなく離陸と着陸である。テロリストが素人ながら貿易センタービルまで旅客機を持っていけたのも、離着陸がなかったからだと言われている。 離陸と着陸が難しいのは飛行機の操縦だけではない。例えば、文章を書く場合なら最初の1行と最後の1行。話をする場合だと最初のひと言と締めくくりのひと言。そして、サッカーの試合なら試合開始直後の5分間と試合終了直前の5分間。これらが離着陸に相当する一番難しい部分であり、かつ最も重要なポイントなのだ。 では、消費者が加工食品を利用する場合はどうだろうか。量販店の棚から商品を取り、外観を見て、裏面の賞味期限、添加物、アレルギー、原産地表示などをチェックしてかごに入れるまでが離陸。その後、中身を食べるという行為はテロリストにもできる簡単な操縦。そして食べ終わった後、容器の材質をチェックし、分別ゴミで廃棄して無事着陸となる。 こう考えると、難しいとされる離陸と着陸は、裏面表示やゴミ問題など中身とあまり関係のないことばかり。つまり、現代の加工食品事情において食べておいしいのは当たり前であり、中身に付随する情報公開や環境対策が、おいしさ以上に重要となっているのである。 4月1日、そんな過酷な食品業界に飛びんできた新人を迎える入社式が各社で行われ、トップの訓示が花を添えた。 「目標を持っている人とそうでない人では、3年後には大きな差が出る(即席麺メーカー会長)」「自分自身の強みを作り、入社2年以内に信頼される自分を形成してほしい(ビールメーカー社長)」「はじめは大いに失敗していいが、3年後には利益に貢献してほしい(調味料メーカー社長)」 どうやら社会人は、入社後2、3年以内に離陸しなければならないようである。あとは無我夢中で操縦し、時間も場所も天候もわからない着陸地点を目指すだけ。レーダーも管制官も社長の訓示もない社会人の着陸は、離陸以上に難しいに違いない。 まだ他人事のように思う今日この頃なのである。
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