216.秀吉と唐辛子(2005.4.25掲載)
韓国を旅すると、ガイドが「わが国に古い寺が少ないのは秀吉軍に破壊されたためだ」と説明し、秀吉好きの日本人は悲しくなる。しかしこれは、明白な歴史歪曲。李氏朝鮮は仏教を大弾圧し、一万以上あったといわれる寺院は、秀吉軍が朝鮮に入る前に三十六ヵ寺にまで減らされていたのだ。 日本人は秀吉が大好きである。このことは、NHK大河ドラマの歴代秀吉役を見てもわかる。昭和四十年の「太閤記」から平成十四年の「利家とまつ」まで順に、緒方拳(二回)、中村芝鶴、火野正平、西田敏行、武田鉄矢、勝新太郎、藤岡琢也、仲村トオル(二回)、竹中直人、香川照之。トオルちゃんはちょっとカッコよすぎる気もするが、すごい顔ぶれだ。 なのに韓国では悪役。知り合いの韓国人曰く、「全ての小学校教科書に秀吉のことが書かれている。秀吉は最も有名な日本人だ」。たしかに朝鮮出兵は、豊臣政権の崩壊を招いた愚策かもしれない。けど、秀吉は我らが庶民のヒーローなんだ。すると、 「秀吉は一ついい物をもたらしてくれた」とその韓国人。なんと、秀吉は朝鮮半島に唐辛子を広めたというのだ。 秀吉軍は朝鮮出兵の際、朝鮮民族を毒殺する「兵器」として南蛮渡来の唐辛子を持ち込んだ。辛い物を食べない当時の日本人にとって、激辛の唐辛子はまさに「毒」。唐辛子の粉末を敵の顔にぶつけたり、風上で唐辛子を焼いたりもしたそうだ。しかし、皮肉にもニンニクやショウガなどの食習慣がある朝鮮民族にとって、唐辛子は逆に体を健康にする気付け薬となり、秀吉軍を撃破したのだった。 その後、日本の唐辛子食は朝鮮半島から逆輸入されることになる。 「つゆとをち、つゆときへにしわがみかな、難波のこともゆめの又ゆめ」 二度目の朝鮮出兵の翌年、日本史上最高の出世人は、この辞世を残して露と消えた。しかし、唐辛子は決して消えることなく半島の国民食となった。 意外な唐辛史に驚いた次第である。
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