257.産地限定(2006.2.20掲載)
食品の開発において、これといった商品特徴がなくて設計に行き詰まった時、「とりあえず産地限定で逃げる」という方法がある。何の変哲もないおにぎりが、「紀州産梅干しと魚沼産コシヒカリのランデブー」というベタなコピーで光り輝いてくるわけだ。他に、道南産真昆布、鹿児島産黒豚、大分産椎茸などの「殺し文句」がある。 だが、果たして産地限定がほんとうに美味しいのかな。 もちろん、おいしい産地にこだわって、ホンモノを追求した商品がほとんどだとは思うが、産地限定には意外な落とし穴がある。産地に縛られるあまり、季節変動や収穫変動で不作となっても、味が落ちた状態のままその産地の原料を使い続けるという場合があるのだ。本末転倒だが、付けてしまったコピーは守らねばならない…。 先日、そんなどろどろした開発のウミを浄化してくれるテレビ番組を見た。NHKハイビジョン特集「受け継ぐ 京都老舗料亭の代替わり」という2時間番組だ。京都東山、南禅寺の参道で400年にわたって京料理の伝統を守り続けてきた老舗料亭「瓢亭」。この店の14代目から15代目への代替わりを主軸に据え、京の春夏秋冬とその季節感を表現する料理のこだわりが、ほんとうに美しく描かれていた。 京懐石の基本はだし。まぐろ節を半年間かび付けし、血合部分を除去した「まぐろ本枯節血合抜」という非常に珍しいだし素材を、出入りの乾物屋があつらえてくる。 お刺身は天然鯛のみ。刺身にした時一番食べやすいサイズ、1.8kgから2.3kgサイズの明石鯛を、調理時間と客数に合わせて出入りの魚屋が絞めてくる。 秋は松茸。出入りの松茸専門業者が丹波の篠山に潜り、どこよりも早く瓢亭の勝手口に届ける。 こんな感じで、こだわりは食材納入業者との共同作業。ほんとうにおいしいものを食べていただくというサービス精神が、素材の季節変動や収穫変動を超越して瓢亭を支えているのだ。 京懐石と加工食品では土俵が違いすぎるが、「逃げの産地限定」にならないよう、瓢亭の味を調査する旅に出ようと決意した。 夜懐石25,000円のハードルは、少し高いかもしれないが…。
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