270.里帰り(2006.5.22掲載)
カルピスが里帰りしようとしている。 カルピスのふるさとはモンゴル。創業者の三島海雲氏が大陸で体調を崩した時、モンゴル遊牧民に勧められた「酸乳」を飲んで健康を取り戻した。この酸乳という乳酸発酵飲料をヒントにして作ったのが、カルピスなのだ。 創業は1919年7月7日。第1次世界大戦の好景気を受けて全国に広がったというから、歴史はかなり古い。その後、1989年に黒人トレードマーク中止、1991年に味の素グループ入りなどの曲折を経て、1995年頃から台湾、インドネシア、タイに進出。そして昨夏、とうとう韓国、中国に上陸を果たした。モンゴルは近いぞ。 台湾、中国での名称は「可爾必思(クールゥピースゥ)」。可は、昔の表現の「可人=かわいい」に由来。爾は、古語で「あなた」。そして必思は、「必ず思う」。まさに、伝説のコピー「初恋の味」4文字熟語版ではないか。中国の硬い水でカルピスを希釈するとどんな味になるのかわからないが、内陸部にまで浸透し、無事里帰りできる日を願うばかりである。 ところで、カルピスの理想的な希釈率は原液1に対して水4。つまり、5倍希釈である。 高校時代、いまや古語となってしまった「純喫茶」で4倍希釈の濃厚カルピスを注文。途中、水をつぎ足して300円のカルピスを500円分くらい堪能した。 純喫茶の終焉とともに家庭の冷蔵庫からカルピス瓶が消え、オレンジカルピスへの憧れも昔日の思い出となってしまったが、わが実家では、いまだにカルピスを愛飲している。 冷蔵庫を開け、天の川をイメージしたという水玉模様の包装紙が目に飛び込んでくる。 なんとなく心安らぐ里帰りなのである。
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