275.弥生人のごはん(2006.6.26掲載)
先日、ある歯科医院の掲示板で気になる標語を見つけた。 「卑弥呼の歯がいーぜ」 この標語には、よく噛んで食べることの効用が次のように込められており、日本咀嚼学会が1990年に考案したらしい。 ひ=肥満防止、み=味覚の発達、こ=言葉の発音がはっきりする、の=脳の発達、は=歯の病気予防、が=ガンの予防、い=胃腸快調、ぜ=全力投球。 う〜ん、最後の全力投球が体育会系っぽくていい。で、なぜ卑弥呼なのかというと、卑弥呼の生きた弥生時代の食事は硬いものが多く、一回の食事で3990回も噛んでいたというのだ。たくさん噛むから食事時間が長く、51分。対して、現代人の平均咀嚼回数は620回で、食事時間11分。噛まないから現代人はあごの線が細い。ちなみに、戦前でも1420回の咀嚼回数だったらしいから、食事は急激にやわらかくなったのだ。 弥生時代の食事というと、すぐに稲作文化を連想しがちだが、咀嚼回数という切り口もおもしろい。 ならば、稲作文化を裏から捉え、ワラの文化として考察してみてはどうか。 縄文末期から弥生初期にかけて、稲の収穫器具は石包丁だった。石包丁は、稲の穂を摘み取る収穫法だから、ワラを利用できない。それが、弥生末期から古墳時代にかけて石鎌で稲を根元から切り取るようになり、ワラが利用できた。 そして、ワラは日本の衣食住に定着した。 衣=草鞋、藁帽子、蓑、藁布団、筵。食=米俵、藁納豆、糠団子、藁束子。住=畳床、藁葺き屋根、注連縄。おまけ=藁馬、藁人形。 なんだか漢字検定みたいだが、すべて今あるものばかり。稲作最大の副産物は、土から生まれて土に帰るエコ素材。平成ロハス時代を迎えて一気に主役に躍り出たのだ。 ワ=和の素材、ラ=ライフスタイル全般、は=廃物利用、す=捨てるとこなし、ご=ごはんのおかげ、い=囲炉裏が似合う。 ワラはすごい、のである。
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