283.キノコ化学(2006.8.28掲載)
最近、キノコが疑われる事件が2件続いた。 まず、アガリクス(正式名称:カワリハラタケ)。「アガリクス由来の健康食品の一部に発がん性がある」と厚生労働省が発表し、その商品が大手メーカー製だったものだから大騒ぎになった。原因物質はアガリチンという成分で、マッシュルームにも含まれている。縁起のよさそうな名前だし、通常摂取量だと全く問題ないのに。 そして、マジックマッシュルームこと、ヒカゲシビレタケ。「関大生飛び降り事件」の男子学生が食べて幻覚症状を起こしたとされたが、実際にその学生の体内から検出されたのはヒカゲシビレタケの幻覚成分シロシビンではなく、別の脱法ドラッグだった。「飛び降りた」ことで疑われたのだ。ヒカゲシビレタケを食べると、スピッツよろしく「空も飛べるはず」と思うらしい。 こんな感じでキノコ受難。きっと、これまで毒や幻覚成分ばかり研究してきたからに違いない。そこで、名誉挽回の機能性研究を2件紹介する。 まず、ヤマブシタケのボケ防止効果。ヤマブシタケに含まれる、ヘリセノンやエリナシンという化合物を痴呆ラットに投与すると、学習能力が向上したのだ。 もう1つは、ヒトヨタケの悪酔い効果。ヒトヨタケをアルコールと一緒に摂取すると、コプリンという成分がアルコールの分解を阻止し、体内にアセトアルデヒドが蓄積して悪酔いしてしまう。一見マイナスに思えるこの作用だが、うまく利用すれば、アルコール依存症の治療に応用できそうである。 キノコ=赤に白い水玉の毒キノコ=森の小人、なんてすぐにおどろおどろしいヨーロッパ風の寓話を連想してしまいがちであるが、調べれば結構役に立つ成分が出てきそうである。 地球上には14万種のキノコが存在するらしいが、名前が付いているのは1万数千種程度。新種を発見し、名前を付けるチャンスである。食べると勇気が出るビビリシビレタケ、背が伸びるミノタケ、気持ちが伝わるオモイノタケ等々…。 キノコは新ネタの宝庫なのである。
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