310.意外な用途 加圧編(2007.3.12掲載)
今年は、京大名誉教授の林力丸先生が「超高圧加工食品」を提唱されて20年目の記念すべき年にあたる。 超高圧加工とは、食品を数千気圧という条件下に置くことで非加熱殺菌ができ、デンプンやタンパク質の変性も起こるという画期的な加工技術。1990年には世界初の超高圧加工食品として明治屋が「ハイプレッシャージャム」を発売した。加熱によるイチゴ風味の劣化がない、すばらしい商品だった。 しかし、バカ高い高圧処理設備の償却が商品原価に乗ってくるため価格競争力がなく、90年代後半には食品業界全体が超高圧加工から手を引くことになる。 そんな憂き目を経験した超高圧加工が、最近目的を変えて復活している。それは殺菌ではなく、牡蠣打ち(生牡蠣の殻から身を取り出す作業)。牡蠣を2000気圧で数分間処理するだけで二枚貝が開き、生と遜色ない身が簡単に取り出せるのだ。殻片の異物混入リスクが避けられ、作業効率も大幅に向上する画期的かつ意外な用途なのである。 ここで話は宇宙に飛ぶ。牡蠣打ち以上に意外な「加圧」の用途として、「宇宙飛行士の老化防止に加圧トレーニング」という記事を見つけた(読売新聞2月27日号)。 加圧トレーニングとは、脚と腕の付け根を特殊なバンドで締め、血流を制限して運動することで高負荷の運動効果が短時間で得られる手法。発明者である東大の佐藤先生が特許を持っている。 宇宙での生活は「頭を6度ほど低く傾けたベッドで、寝たきりで生活している状態」らしく、筋肉量が毎日0.5〜1%ずつ減り、骨量が1ヶ月で最大2.5%も減ってしまう。そこで、宇宙での過酷な寝たきり状態による筋肉老化を抑える手法として、加圧トレーニングが採用された。2時間の運動時間が30分に短縮でき、宇宙実験の時間が有効に使えるのだ。私と同い年の若田さんが国際宇宙ステーションで試すのかな。 牡蠣打ちや宇宙ステーションで活用される高圧技術や加圧理論。追い込まれた開発者が、プレッシャー(圧力)をはね返してひらめいた応用例に違いないと思った。
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