312.ダブつくクジラ(2007.3.26掲載)
本稿第295号の「ぜいたくいわし」で、イワシが不漁で高級魚になってしまった話を紹介したが、そのイワシ不漁に関するおもしろいデータを中央水産研究所の谷津明彦先生が発表している。 谷津先生の論文によると、「日本のマイワシの豊漁・不漁は、世界の平均気温やアリューシャン低気圧と関連がある」らしく、世界の平均気温が高いと豊漁で、また、アリューシャン低気圧が活発でも豊漁になるという。 う〜ん、おもしろいけど人類の力ではどうにもならない話だな。 そこでもう一つ。イワシ不漁の原因として、「クジラが増えすぎたから」という俗説がある。科学的根拠は定かでないが、これなら人類も協力できるぞ。食べればいいんだ。ということで、クジラの消費拡大に貢献せんと、渋谷道玄坂のクジラ料理専門店「元祖くじら屋」を訪問した。 とりあえず定番の竜田揚げで懐かしさに涙腺をゆるくした後、珍味盛り合わせに挑む。「さえずり(舌)」「鹿の子(腹)」「さらし鯨(尾ひれ)」…。気分を盛り上げるため、酒は高知の「酔鯨」。 創業昭和25年の伝統ある味付けには文句の付けようもないが、どうしても原料のことが気になり、お店の人に話をうかがった。 「原料は調査捕鯨のミンククジラ。時々スポットでナガスクジラも入荷しますが、基本はミンクです」 そのミンククジラがダブついているらしい。クジラ肉の供給量は2000年度の2450トンから2005年度は5560トンと増加したが、国民1人あたりの消費量がこの40年間で約2kgも減少し、過剰在庫になってしまったのだ(約4000トンの流通在庫)。 調査捕鯨の財源はクジラ肉の売り上げだから、クジラが売れないと十分な調査ができなくなり商業捕鯨再開の道も険しくなる。今後のさらなる消費拡大のためには、クジラで育ち、クジラは畜肉だと思い込んでいた団塊世代をターゲットにした販促PRが必要ではないか。 高タンパク低カロリーのクジラ肉。グリーンピースのシュプレヒコールなど、酔鯨とともに呑み込んでしまえばいい。 クジラもイワシも、元来庶民の食べ物なのだから。
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