313.舌の丁稚奉公(2007.4.2掲載)
2007年2月25日、三遊亭円楽師匠が現役引退を表明した。進退をかけて臨んだその日の高座で思うように呂律が回らず、「お客さんに申し訳ない」という気持ちで決断したらしい。 円楽師匠といえば、「薮入り」を一度生で聴いたことがある。丁稚奉公に出した息子が薮入りで両親の元に帰ってくる日の様子を描いた、古典落語の定番。師匠の話芸に感動し、演芸場で涙してしまった。4000円のお代では申し訳ないと思う名人芸だった。 そして今日、4月2日に入社してきた新入社員たちに「薮入り」を聴かせてやりたいと思った。 新人諸君よ、丁稚奉公という言葉を知っているか。 丁稚奉公は江戸時代から戦前まで行われてきた商店主育成制度。10歳前後で親元を離れ、住み込みで雑用をこなしながら礼儀や商売のいろはを叩き込まれる。その後、手代、番頭と昇格し、暖簾分けとなるのだ。衣食住付きで教育してもらい、独立の手助けまであるのだから丁稚は当然無給。年2回の薮入り時に小遣いをもらえる程度であった。 新人諸君よ、これから給料をもらいながらの新人研修である。 かつて、新入社員に「丁稚」と書かれたトレーナーを着せて叩かれた企業があったが、無給の丁稚に比べれば恵まれた環境ではないか。 新人諸君よ、とにかく研修で礼儀と舌を鍛えてほしい。 礼儀は体で覚えるとして、舌を鍛えるには下記のような識別訓練法がある。 砂糖0.4%、食塩0.13%、酒石酸0.005%、カフェイン0.02%、グルタミン酸ソーダ0.05%の水溶液で、甘味、塩味、酸味、苦味、旨味を見分ける。1.00%と1.06%の食塩水を見分ける。5倍希釈と6.25倍希釈のオレンジジュースを見分ける等々。 過去の研修結果を振り返ると、「幼時、質素な食生活を送っていた人ほど舌が鋭い」という傾向がある。 舌にも丁稚奉公が必要なのである。
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