316.燃えるとんがり君(2007.4.23掲載)
この時期、新入社員に必ず投げかけるフレーズがある。それは、「短所=長所。今の短所が5年後には必ず長所になるよ」。だから、短所が目立つ新人ほど期待できるやつということになる。短所になるくらい極端なキャラの持ち主じゃないと生き残れないのだ。「人罪→人材→人財」。罪作りな短所が財産に変わるのだから、とんがった新人の方がたくましく見えてくる。 しかし、期待のとんがり君も社会の荒波にもまれ、いわおにぶつかり、身動きが取れなくなって、早晩丸くなる。そう、寝かされた醤油のように…。 できたての醤油は塩かどが目立ち、とげとげしい味でまろやかさに欠ける。しかし、時間とともに塩かどは取れ、賞味期限を過ぎたあたりから絶妙の熟成感が形成されるのだ。 塩かどが丸くなる仕組みはとんがり君と同じ。製造直後は動き回ることができた食塩由来のナトリウム原子であるが、時間とともに糖やアミノ酸にぶつかり、水分子に取り囲まれ、だんだん身動きが取れなくなる。ナトリウム原子の動きが鈍くなると塩かどを感じない。つまり、これが熟成なのである。 できたての頃におとなしすぎると、熟成後に物足りない味になってしまう。短所が長所に変わるのだから、多少の塩かど大歓迎。そう、血気盛んに入社してきたとんがり君のように…。 もう一つ、新入社員に投げかける言葉がある。それは、「火をつけなくても燃える人3%、火をつけると燃える人17%、火をつけても燃えない人80%」。 求む、燃えるとんがり君。 醤油だって、かどが取れるのに賞味期限いっぱいを要するのだから、とんがり君も定年までとんがっていていいんだ。 醤油メーカーの社内販売では賞味期限の迫っている商品から順に売れていくという。 時間は最高の調味技術であり、人材育成術なのである。
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