325.麦(2007.6.25掲載)
私の好きな詩に、石原吉郎先生の「麦」という作品がある。 「いっぽんのその麦を/すべて苛酷な日のための/その証としなさい/植物であるまえに/炎であったから/穀物であるまえに/勇気であったから/上昇であるまえに/決意であったから/そうしてなによりも/収穫であるまえに/祈りであったから/天のほかに ついに/指すものをもたぬ/無数の矢を/つがえたままで/ひきとめている/信じられないほどの/しずかな茎を/風が耐える位置で/記憶しなさい」 ところで、この場合の麦は大麦だろうか小麦だろうか。 それぞれの用途を考えると、間違いなく大麦の方がぴったりはまる。大麦は、麦茶、ストロー、麦わら帽子。小麦は、パン、麺類、お菓子。う〜ん、大麦って詩的なんだな。それに夏っぽい。 大麦と小麦はどちらもイネ科に属するが、分類上は全く別の植物である。だから、大麦アレルギーはないが小麦アレルギーはある。大麦にグルテンはないが小麦にはたっぷり。大麦の粉ははったい粉で小麦の粉は小麦粉。 また、大麦小麦の大小は大きい小さいではなく、大麦がメジャーで小麦がマイナーという伝来当時の設定らしい(大豆小豆の大小も同じ理由)。特にこれからの季節、完全に大麦がメジャーリーガーだな。 くしくも6月1日は麦茶の日。ウーロン茶や緑茶に押されっぱなしであるが、麦茶は江戸時代から親しまれてきた国民的飲料。もっと麦茶を飲もうではないか。麦わら帽子と蝉しぐれに囲まれた幼き夏、ゲータレードもポカリスエットもなかったサッカー部合宿の青き夏、いつの時代もその傍らには香ばしい麦茶があったのだ。もちろん麦茶は体にいい。麦茶を飲むと血液がサラサラになるという研究成果を、カゴメ総合研究所が発表している。 とはいうものの、おっさんには麦茶よりビールと焼酎。これも大麦。 今年の夏は、石原吉郎先生の詩と大麦の力で乗り切る予定である。
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