338.母の食育(2007.10.1掲載)
幼時、母がしょっちゅう語っていた食に関する教訓が3つある。 「玉ねぎを食べると頭がよくなる」「ひじきを食べると髪が黒くなる」「肝を食べると目がよくなる」 食品の研究を生業にして20余年、玉ねぎ天才説とひじき黒髪説の根拠はいまだに見つかっていない。玉ねぎもひじきも強力な抗酸化活性を持ってはいるが、酸化を抑えただけじゃ頭はよくならないだろう。 対して、効果が間違いないのは肝の視力向上。特に、全ての食品の中で圧倒的なビタミンA含量を誇る鶏肝がいい(100g中含量=鶏肝14mg、豚肝13mg、あん肝8.3mg、牛肝1.1mg)。 痛風を恐れるあまり鶏肝を避けるメタボリック諸君よ、他で節制していれば恐れるに足らず。ストレートに目に届くビタミンAを鶏肝から摂るのだ。 なぜビタミンAが目にいいのか。それは、網膜中の視細胞に存在するビタミンAの酸化物(レチナールという)が屈伸運動することで、人間が光を感じているから。 ふだん、視細胞中のレチナールは体を曲げた不安定な状態で存在しているが、光が当たるとエネルギーを得て体をまっすぐに伸ばす。この屈伸運動が信号となって「見えたぞ」と視神経に伝えられる。つまり、「物が見える」という現象に、ビタミンAの構造変化が直接関与しているのだ。 パソコン仕事に目をしょぼつかせた後、酩酊のお供に鶏肝3つ。今夜も母の食育を実践する。ふと、「テレビは離れて見なさい」という母の小言を思い出した。 至近距離でパソコン画面を見て、ウサギ小屋で大画面テレビを見る日本の家電事情を考えれば、この小言も今や化石なのかもしれないと思った。
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