342.クリープを入れないコーヒーなんて(2007.10.29掲載)
前号(第341号)で加工食品の長寿商品をいくつか紹介したところ、ある読者の方から、「その歴史を書け」というリクエストメールを頂いた。 どの世界でも、歴史を学ぶことは重要である。 東京大学の山内昌之教授も、本年1月4日付の読売新聞紙上で「歴史を知ることで常識を知るという作業が行われていないから、支離滅裂な若者が出てくる」と、歴史授業の未履修問題を嘆いていた。 さらに山内教授は、「論理的に歴史の流れを考える志向を軽視する風潮が、今の日本社会にあると思う。なぜ、歴史を学ぶのかということを教えないので、結局、ものごとの因果関係、筋道を考えられない日本人が増えている。とくに、若者の刹那的、衝動的な行動はこの点と無縁ではない」と語っている。 なるほど、歴史を勉強しないからキレるんだな。 ということで、御歳90歳と紹介したミルクキャラメルから話を始める。 森永製菓がミルクキャラメルを発売したのは1914年だから、正確には93歳。そして、大ヒットしたミルクキャラメルの主原料である乳製品を自社製造するために設立されたのが、森永乳業である。現在では森永乳業4286億円、森永製菓1517億円と、森永乳業の売り上げの方が大きい。 その森永乳業の主力商品が、クリープ。1953年に生クリームを粉末化するという革新的技術を確立したものの、当時まだコーヒーは高級品。結局、発売はインスタントコーヒーが登場する1960年の翌年まで見送られることになる。 1961年4月、満を持してクリープ発売。この年、インスタントコーヒーの輸入が自由化され、流通量が爆発的に拡大。2年後には自由化前の100倍というコーヒー普及の追い風に乗り、クリープも大ブレークしたのだった。 やはり先手必勝。技術の蓄積は必ず結果に繋がるのだ。 そしてもう1つ。クリープはCMの歴史にも足跡を残した。昭和42年に登場した、「クリープを入れないコーヒーなんて」という芦田伸介氏のCM。当時、大物俳優は軽々しくCMになど出なかったらしく、「商品を持たない、笑わない、カメラを見ない、しゃべらない」という当時としては考えられない条件で、出演をOKしたらしい。 歴史を学ぶと必ずそこには何かがある。歴史授業の意義を、もう一度山内教授に語ってもらおうではないか。 歴史を入れない履修科目なんて、と。
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