347.サキサキセロリ(2007.12.03掲載)
私の好きな食品ネタの短歌に、佐佐木幸綱先生のセロリの歌がある。 「サキサキとセロリ噛みいてあどけなき汝を愛する理由はいらず」 無防備かつ無邪気にセロリを食べる彼女の全存在を、ためらいなく愛しく思う男性の心象が見事に描かれている。確かに、愛することに理由はいらない。 この歌の圧倒的な存在感は、冒頭の擬音語「サキサキ」によるところが大きい。 「シャキシャキ」でも「サクサク」でも「シャリシャリ」でもない「サキサキ」。この、セロリにぴったりの擬音語を生み出した佐佐木先生の創造力は、すごい。 日本語は擬音語の宝庫である。だから、食事の時の擬音語を大まじめに調査した論文があったりもする。論文名は、「性別・年齢別・地域別にみた日本語テクスチャー用語の認知状況」。テクスチャー用語とは、擬音語を含む食感の表現用語である。 445語のテクスチャー用語を調査したというこの論文の概要を紹介する。 男性に比べて女性の認知度が高い用語…ぽそぽそ、もそもそ、もさもさ、もったり、くたくた、ぼそぼそ、分離した、ぱらぱら、なめらか、ほっこり。高齢者に比べて若年層で認知度が高い用語…ぷにぷに、シュワシュワ。首都圏に比べて京阪神地区で認知度が高い用語…もろもろ、かすかす、にちゃにちゃ、ねばい。大阪のこてこて感が伝わってきた。 だからどうなんだと言われると、この先の展開が見えない論文ではあるが、445語の中に「サキサキ」はなかった。ない言葉を創るのだから、やっぱり佐佐木先生はすごい。 私にも創ってみたい擬音語がある。それは、蕎麦をすする音。そば粉の香りが鼻から抜け、軽い喉ごしとかつお節のだし感を引き連れる粋な音。「つるつる」はうどんの音だし、「ずるずる」だと少し物足りない。円楽師匠や小朝師匠が「時そば」で扇子を箸にしてすするあの威勢のいい音を4語で表現したい。 サキサキセロリを目標に、ざる蕎麦をすすりながら擬音語をひねる今日この頃である。
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