363.裕次郎のショートケーキ(2008.03.31掲載)
石原裕次郎主演の日活映画、「太平洋ひとりぼっち(1963年)」を観た。小型ヨット「マーメイド号」による太平洋単独航海を成功させた、堀江謙一氏の同名航海記を映画化したものである。 映画の中で、裕次郎さんが備蓄の食糧を利用してショートケーキもどきを作るシーンが印象的だった。砂糖、バター、クリープをマグカップの中で混ぜた後、スプーンですくって食べ「本物のショートケーキが食べたい」とひとりごつのだ。 この「もどき」、けっこう本物の配合に近い。当時全盛だったバタークリームのショートケーキなら、足りないのはスポンジ部分の小麦粉と卵ぐらいだ。胸焼けしそうなバターが、裕次郎さんの熱いイメージにぴったりの名シーンなのである。 ところで、ショートケーキの「ショート」は、固形油脂であるショートニングに由来するということをご存知だろうか。発祥であるアメリカのショートケーキはスポンジ部分がビスケットであり、このビスケットにショートニングが練り込まれているのだ。 大正時代に日本に伝搬した元祖ショートケーキは、菓子メーカー不二家の手で日本風にアレンジされ、スポンジタイプで世に広まったのである。 映画のラストで、サンフランシスコに着いた堀江氏役の裕次郎さんが、保護された大使館員の自宅で入浴し、100日の疲れを取るシーンがある。風呂上がりにショートケーキをおねだりしたら、サクサクビスケットのアメリカンタイプが出てきてびっくり、なんて架空のシーンを想像してしまった。 ヨットもアメリカもショートニングもショートケーキもぴったりはまる、29歳のまぶしい裕次郎さんだった。
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