370.放置自転車とコーラバー(2008.05.19掲載)
高校時代の部活帰りは、決まってコーラバー片手のママチャリだった。1本30円のコーラバーでクールダウンしながら風を感じ、高田渡の「自転車に乗って」を口ずさみながらペダルを蹴った。甘苦いコーラバーは、青春の蹉跌にぴったりの挫折感を孕んだアイスだった。 しかし、17の夜に風を感じるならバイクだろう。蹴るのはギアだろう。 どっこい愛媛はチャリンコ天国。何を隠そう、わが故郷は傍若無人の自転車繁殖県で、商店街にあふれる自転車に邪魔され買い物もままならないのだ。 社団法人自転車協会の調べによると、愛媛県は人口100人当たりの自転車保有台数59.3台で全国第6位。1位大阪76.1台、2位埼玉71.0台、3位東京66.5台と大都市が上位を占めるのはわかるが、超田舎の愛媛が6位というのはどういうわけか。 実際、当時6人家族の私の実家でも7台の自転車が車庫を埋め尽くしていた。だから欲しくてもクルマが買えない、と免許を持っていない父が言い訳のタネにしていた。 一方、坂道とレンガ道の連続で、自転車にとって最悪な環境なのが長崎県。100人当たりの保有台数も24.3台と46位。だから練習したくても乗る場所がなかった、と自転車に乗れない長崎出身の知人が言い訳のタネにしていた。 話を愛媛に戻して放置自転車の実態。保有台数の多さは問題ないとしても、内閣府の「放置自転車・放置原付自転車の多い駅」調査でのランクインはちょっと恥ずかしい。松山市駅の放置台数は1974台で、全国ワースト11位(1位大阪、2位名古屋、3位新大阪、4位溝の口、5位千葉)。駅前はほんとうにぐちゃぐちゃだ。 対策は問答無用の強制撤去。今から20年前、上京後の初出勤で新品の自転車を市役所に持って行かれ、夕暮れの蕨駅前に立ちつくした。許可書の貼付が必要なことなど当然知らなかった。 仕方なく歩いた。 駅前のコンビニでコーラバーを探したが、見つからなかった。 放置自転車から景観と歩行者を守るには、半日の猶予すら与えてくれない強制撤去が必須なのである。
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