378.中村座に嫉妬(2008.07.14掲載)
先日、渋谷のシアターコクーンで、中村勘三郎率いる「平成中村座」の凱旋公演「夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)」を観た。 2004年のニューヨーク公演を成功させ、今年はベルリンとルーマニアのシビウという町での公演が大成功だったというが、古典歌舞伎もよく知らない人たちに現代歌舞伎の良さが伝わるのか。そもそも現代歌舞伎とは何なのか。この辺の答えを体感すべく、席に着いたのだった。 本編では随所に古典との違いが見られ、欧米人に受けそうな仕掛けもてんこ盛りだったが、最も感心したのはそのオープニング。 開演10分前、縁日のセットが組まれた舞台にはすでに役者が数名居て立ち話。そして、チケットを手に通路を歩く入場者と並んで、うちわ片手の役者が声をかける。「今日も暑いねぇ」。つまり、夏祭りの雑踏を会場全体で表現し、縁日(舞台)に向けて、出演者が三々五々集まってくる。観客も集まってくる。なんだかお芝居の中に入り込んだような錯覚。 そして、開演時間になった頃を見計らって勘三郎が喧嘩を始める。ここから本番。緞帳を引いて仰々しく開演といった古典と対極をなす、敷居の低い、一体感のあるオープニングだった。 こういう仕掛けに出会うと、「すごい」という感動と同時に「やられた」という嫉妬に似た感情が湧き上がる。分野は違うが、ものづくりの才能に対する嫉妬である(レベルが違いすぎて失礼だが)。 ちなみに、最近嫉妬した加工食品を紹介する。 コカコーラの「ファンタふるふるシェイカーオレンジ」。炭酸飲料でありながら振らなきゃ飲めないという逆転の発想が受け、大ヒット。 井関食品の「熱中飴」。猛暑対策飴として、1粒当たり0.25gの塩を配合。これが建設現場で受け、1kg入りの業務用を大量受注。 松下電池の「電動ゴマすり器」。調味料入れのようなコンパクト設計ながら、すり加減が調整できる点が受け、累計230万台を販売。 どんな分野でも物作りの才に溢れる人がいて、それに対価を払う人がいる。 嫉妬も修行の内と得心し、コクーンを後にしたのであった。
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