384.ジャパン(2008.09.01掲載)
ビリヤードのトッププロの試合は、見ていて意外とおもしろくない。淡々と的玉をポケットに沈めるだけで、客席が湧くようなトリックショットやスーパープレーはほとんどない。 それは、プロだから。プロは勝つ試合じゃなく、負けない試合をするから。 負けないためには、失敗するかもしれないスーパープレーは絶対に避ける。つまり、ポケットを狙わず手玉を隠して相手のファウルを誘うのだ。 プロは負けてはいけない。負けるかもしれない勝負は、何を言われようが避けなければならない。…これが、北京五輪の個人的総括である。もちろん、野球の「星野ジャパン」のことであるが。 ストライクゾーンが違い、マウンドの高さが違い、ボールが違うのは国際試合だから当然である。温室育ちのプロ選手がこのようなワイルドな環境に対応できないのなら、石ころグラウンドの草野球で鍛えたアマチュア選手を出せばいい。トーナメントに慣れた社会人野球の方が五輪向きかもしれないし、高額年俸者に対する意地で、執念のプレーを見せてくれるかもしれない。 調理の世界で似たような経験がある。 ある料理屋から「つゆ商品の味がぶれる」というクレームが来た。返品されたクレーム品を見ても異常はなかったが、お詫び訪問で真相がわかった。その料理屋は山小屋のようなワイルドな佇まいで、壊れかけの計量カップを使って適当につゆを希釈していたのだ。「にいちゃん、パッケージの指示通りなんか作れないよ」。 いつも下2ケタのデジタル重量計でつゆを希釈し、規格通りの完璧な状態で試食していると、調理現場では当たり前のことが見えなくなってしまう。調理の世界でも温室育ちはろくなことがない。 2009年に開催予定である野球の第2回国別対抗戦(WBC)。監督の人選が大変そうだが、ビリヤードの国別対抗では圧倒的にフィリピンが強い。それは、ワイルドな青空撞球場のでこぼこテーブルで、生活をかけて負けられない玉を撞いているから。 負けられないジャパンの参考にしてもらいたいと思うのである。
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