387.ブランド(2008.09.22掲載)
日本人はブランド好きである。 そのことを象徴する事例として、「ルイ・ヴィトンの全売上の4割を日本が占める」というネタがよく使われるが、そんな富裕層の話より、水戸黄門の印籠に溜飲を下げることや、相撲部屋のけじめにもの申すことの方がブランド好きの表れとしてふさわしい。 有閑マダムがエルメスを奉るように、お茶の間も葵の紋所にひれ伏す。トイレのスリッパにサンローランのロゴを見た時の哀しさは、輪島が花籠株を担保に借金をした時のショックに近い。 そして、日本人にとって究極のブランドが皇室であることは言うまでもない。われわれ陛下の赤子は常に天子様の思いを身にまとい、日々の営みを繰り返す。1954年に制度が廃止されたにもかかわらず、「宮内庁御用達」の文字が市場から消えないのも、計り知れないブランド資産の大きさゆえである。 あるかつお節屋の社長さんが、宮内庁に納める品を製造した日のことを問わず語りに語ってくれた。 「作業前に入浴して身を清め、作業着も下着も白。ふだんは選別しない燻乾用の薪も、その日は桜の木だけ。派出所の巡査が生産に立ち会った」 このストーリーこそがブランドなのである。 恥ずかしながら、わが職場も宮内庁納品に関わったことがある。両陛下がお見えになった地方行幸イベントのおみやげ品。県産品を利用した真鯛の粕漬けだった。 「常温で賞味期間1ヶ月、添加物なし」 粕漬けで常温は厳しい。しかも添加物なし。プライドとブランドをかけ、無謀な要求をこなした。ご奉仕の悦びと技術的ハードルを越えた達成感が、商品を後押しした。 このストーリーこそがブランドなのである。 ブランド大国日本のお眼鏡にかなう商品の歴史を、積み上げていきたいと思うのである。
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