410.幻想居酒屋(2009.3.09掲載)
もし自分が居酒屋を経営するとしたら、やってみたいイメージがある。 雪深い闇夜の山中を迷った果てに辿り着いた藁葺きの一軒家。壁には笠や蓑が掛けてある。木戸をたたき一宿一飯を乞うと、中から雪ん子が出てきて「中であったまってくださんせ」。そして、囲炉裏で火にかけられたおいしい汁を振る舞われるのだ。「どうぞ召し上がってたんせ」。 やばい。妄想の極みである。「まんが日本昔ばなし」の見過ぎか、はたまたストレスのため過ぎか。目が覚めたら葉っぱ一枚頭に乗っけて雪上で凍えていそうな幻想譚ではあるが、こんな居酒屋、現実逃避の宿としてどうだろう。 話はそれるが、昔ばなしには現代人が抱える悩みを解決へと導くメタファーがいくつか隠されている。 例えば鶴の恩返し。見てはいけないと言われていたにもかかわらず、妻が鶴となって機を織る姿を覗いてしまい、幸せな家庭が終末を迎える。つまりは、赤の他人が居を共にする夫婦関係など現実的には砂上の楼閣に過ぎず、お互いルールを守り、あえてジョーカーを引かないことで円満が保たれるということ。 例えばウサギとカメ。当然勝つはずのウサギがカメに負けたのは、目標設定が間違っていたから。ウサギはカメに勝つことが目標、カメはゴールすることが目標。カメの勝利は正しい自己実現の帰結であり、コツコツ頑張ったから勝てたという教育委員会的発想はナンセンス。 例えば雪女。雪女に遭遇したことを堅く口止めされていたにもかかわらず、幸せボケの失態か、妻に化けた雪女に「実は昔…」と語って幸せは崩壊する。つまりは、いかなる状況下でも秘密は守らねばならないということ。情報化社会における最低限のルールである。 こんな教訓をちりばめた昔ばなし風居酒屋。迷い込んでみてはいかがかな。 経営的には、人件費+食材費が売上の60%以下という外食産業の適正水準を守るべく、雪ん子や雪女の人件費をどう抑えるかを思案しているところなのである。
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