413.県立パラダイス学園(2009.3.30掲載)
県立パラダイス学園。我が出身高校の最近の二つ名である。 在学当時から十分に楽園的校風ではあったが、最近特にパラダイス化が激しくなり、生徒はもちろん教員の赴任先としてもダントツナンバー1の理想郷と化している。校則がなく、自己責任において何をやっても自由。いじめも体罰もなく、オタクとヤンキーと教員が融合する不思議な学園だった。 学業面では難関大学には目もくれず、適度に勉強して全校生徒の約半数が地方の国立大学に進学(東大、京大0名でありながら昨年の国立大学合格者数202名は全国9位)。部活は限りなく同好会に近い体育会。偉人は出ないが同窓会はあたたかい。だから、「ここで定年を迎えたい」「県立でありながら私立高校の理想型」と多くの教育関係者が口をそろえる。 ただし、「明日のことなど考えない」という条件付であるが…。 アリとキリギリスの寓話をひもとくまでもなく、辛苦が必要な時期にその日暮らしの享楽を極めた若造が社会の中心で活躍できるほど世の中甘くはない。自ら描いた人生設計を実現せんと、日々の努力をコツコツ怠らない賢者が成功するのは当たり前。当たり前のことが見えなくなるのだから、パラダイスは恐い。 多感な10代後半を浮かれバイオリンのごとく浪費した小生も、当然の帰結として社会の荒波でアリに突き放された。都会のアリはすごかった。 頭も家柄もよく、外見と財力に恵まれた選良がアリの努力を重ねるのだから、田舎のキリギリスがかなうはずもない。 東京で知り合ったある有名私立高校出身の貴顕が、修学旅行のエピソードを語ってくれたことがある。その高校では旅行プランを生徒が自由に企画し、自ら取り寄せた旅行代理店の見積りとともに企画をプレゼン。審査に通れば、海外だろうが隣町だろうが好きなメンバーで好きな場所に行けるというのだ。 用意していた自身の修学旅行ネタを即座に封印した。やんちゃネタを否定するわけではないが、ちょっと恥ずかしかった。商機を決するプレゼンの相手としては手強すぎた。 喫煙者の肺が完全に元に戻るのには、喫煙した5倍の期間の禁煙が必要だと言われている。あの3年間を取り戻すには、15年の研鑽が必要なのか。 大好きなパラダイス学園OBとしての矜恃を保ちつつ、社会との折り合いを付ける今日この頃である。
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