416.涙の出ないタマネギ(2009.4.20掲載)
パントマイムで世界に名を馳せた2人組、「が〜まるちょば」のライブを見た。 かなり感動した。 時々、テレビのバラエティ番組などに出演して披露していたパントマイムの小技は冒頭のほんの一部であり、大半はストーリーのあるコントや芝居だった。 圧巻は、チャップリンの同名映画をモチーフにした45分間のマイム劇「街の灯」。 盲目の花売りに恋をした銀行強盗未遂の青年が、警察から逃れながらも肉体労働で貯めた金を目の手術代として花売りに渡す。結局青年は逮捕され、数年経って出所した後は浮浪者に身をやつす。そこに手術で目が治った花売りが現れ、青年に哀れみで花を渡そうとする。もちろん、あの日の青年だと知らずに…。 再会をためらう青年に無理やり花を渡そうと手を握った瞬間、花売りは手のぬくもりから目の前の青年が大切な人であることに気付き、ハッピーエンドとなる。 一切言葉のない世界で、これほど心を打たれたのは初めてだった。パントマイムのテクニック以上に、物語の本質を客席に届けようとする何かが胸に染みたに違いなかった。 ふと、数日前に学会誌で見た「涙の出ないタマネギ」に関する記事を思い出した。遺伝子発現抑制という手法で催涙成分を合成する酵素の生成を抑えると、味や有効成分を変えずに涙の出ないタマネギができるというのだ。 辛くない唐辛子や臭くないニンニク同様、最初は「涙の出ないタマネギなんて」と否定的だった小生だが、言葉のないお芝居に涙してからは、実りの本質さえしっかりしていれば、余分なクセを排除した野菜の方がストレートにおいしさを伝えることができるのだと思うようになった。 調理で涙が出なくてもタマネギはタマネギ。自然な甘味とコクで食卓を豊かにしてくれるのなら、その感動が涙に変わることもある。 が〜まるちょばに教わった気がした、春の夜であった。
|
column menu
|