423.原色の記憶(2009.6.8掲載)
昔日の記憶が時にセピア色になるのは、その方が映像として美しいと脳が都合よく解釈するからかもしれない。 黒ニスの板塀、灰色の煙突、褐色のどぶ川…。確かに、色のない昭和の原風景をカラー映像にしたところで、リアルな貧乏長屋が蘇っておじさん達を哀しくさせるだけ。 そんなモノトーンの記憶の中で異彩を放つ商品が3つある。 夏の朝、庭の井戸水で歯を磨く祖父の歯磨き粉は「タバコライオン」で、コップは「ワンカップ大関」の空き瓶。そこに、夏休みの工作で行き詰まった私が「木工用ボンド」片手に現れる。 タバコライオンの赤、ワンカップ大関の青、木工用ボンドの黄。この3つの原色は、記憶のランドマークとして定着すると同時に、平成の今も各企業の定番商品として燦然と輝いているのだ。 タバコライオン(昭和37年発売)。長方形の真っ赤な容器に入った粉末タイプのヤニ取り歯磨き。歯磨き粉というくらいだから、粉末タイプが正統か。タバコライオンの発展系として、チューブ入りの「ザクトライオン」も発売されている。 ワンカップ大関(昭和39年発売)。一升瓶が主流の時代にコップ酒を提案し、発売15年で年間1億本を達成した大ヒット商品。青地に白で書かれた「One CUP」のデザインは今でも斬新。ショーケンが枯れ葉に埋もれるCMもかっこよかった。そういえば、ショーケンのヒット曲に「ホワイト&ブルー」というのがあるが、ワンカップ大関のラベルをヒントにしたのかな。 木工用ボンド(現在の黄色い容器は昭和47年発売)。何とも言えないボンドの匂い。白濁の液体が透明になる不思議。工作の友はヤクルトの空き瓶やかまぼこ板と共に夏休みの風物詩だった。今は商品名が「ボンド木工用」になっていて、ちょっと寂しい。 優れたデザインは生活と一体化し、記憶の風景に溶け込むものである。 セピア色にするにはもったいない原色もあるのだと思った。
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