424.ジャックと青豆(2009.6.15掲載)
最近、職場で双子の誕生が2組続いた。 一卵性の場合、双子の確率は0.4%らしいから、0.16%のレアな出来事に遭遇したことになる。同時に、この世に出現した4人の新しい名前に触れた。名付けの責任と愛情の重さが伝わってきた。 末代まで繋がる生身の人間ほどではないかもしれないが、「小説の主人公の名付けには毎回苦労する」とある作家が語っていた。 奇をてらわず違和感なく、さりとて平凡でもなく。脇役と混同せず実在の知人とも重ならず、なのにずっと印象に残る。こりゃ大変だ。 確かに、歴史的名著の主人公の名前は見事にストーリーを投影し、その名を口にするだけで読後の感動がリアルに蘇る。他の名前では絶対にだめだ。 川端康成「雪国」の駒子、宮沢賢治「銀河鉄道の夜」のジョバンニとカムパネルラ、山崎豊子「白い巨塔」の財前五郎、浅田次郎「鉄道員」の乙松、花村萬月「イグナオ」のイグナシオ…。 さすがのセンスである。 そして2009年5月29日、村上春樹の新作長編小説「1Q84」が、発売日に4刷68万部というニュースを引き連れて書店に並んだ。とにかく主人公の名前が知りたくて、ページをめくった。前作「海辺のカフカ」のカフカを超える名付けを期待した。 「青豆」。 おどろいた。とてつもない才能に、立ち読みの腰が砕けそうになった。読む前からキャラクターが歩き始めた。 同時に豆つながりで、ハウス食品のえんどう豆系スナック菓子に「ジャック」と名付けた奇才コピーライターの顔を思い出した。「豆とくりゃジャックでしょ」とさらりと語っていたコピーライターの才能と、民話の主人公にジャックを配した英国人のセンスに思いを馳せた。 ジャックと青豆。シンプルでありながら、無限にワールドが広がる天才的ネーミング。 二人の才能にあやかり、印象に残る新商品の名付け親になりたいと思う今日この頃である。
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