426.失踪願望(2009.6.29掲載)
出張などで初めて訪れる地域の見知らぬ街をコトコト電車で揺られていると、必ず頭をよぎる妄想がある。 「このまま失踪してみたい」 誰ひとり自分のことを知らない異郷の地で、一からやり直す。染みついた垢としがらみを捨て、リセットした自分を想像してみる。詮無い願望ではあるが、ささやかな旅の一興として悪くない。 我が心の友「カッパくん」も、そんな願望を抱き続けて生きている。もちろん、フィクションの世界であるが。 それは、アランジアロンゾ著の写真絵本「どこへいくカッパくん(角川書店)」の主人公カッパくん。ある日、なんだか切なくなって朝一番の電車で海に向かう。そして、車中で居眠りして見た変な夢で、もうひとりの自分がこう提案するのだ。 「いい考えがある このまま失踪する で、やりなおす」 ところで、どこかでやりなおすためかどうかは不明だが、突然失踪してしまった生物が最近話題になっている。ミツバチである。 世界中で不可解なミツバチの失踪が相次ぎ、数百万もの巣箱が空になり、授粉を必要とする100種類近くの作物が危機に瀕しているというのだ。 日本国内でもミツバチ不足は深刻で、イチゴ、メロン、スイカなどの栽培に影響が出ている(日本で飼育されているミツバチの約2割が授粉用)。 そういや、ミツバチドロボウなんて一見メルヘンな犯罪がニュースで報道されていたっけ。 全世界におけるミツバチの授粉作業を労働コストに換算すると、2150億ドルにもなるという。つまり、ミツバチがいなくなれば、この金額がそのまま農作物の単価に乗ってくるということなのだ。また、アインシュタインの「ハチが地球上からいなくなると、人間は4年以上生きられない」という真偽不明の予言まで新聞記事で取り上げられていた。現代社会は、こんなにもミツバチに依存していたのか。 しかし、失踪の原因は未だに謎。ウイルス説、寄生虫説、農薬説などが挙がっているが、ぜひここに失踪願望説を加えてもらいたい。 働き続けたミツバチの思い切った行動に、自身を重ねてみるのである。 「いい考えがある このまま失踪する で、やりなおす」
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