427.ひねもす買い物行(2009.7.6掲載)
2009年6月26日の日経新聞1面トップは、「通販、コンビニ・百貨店抜く」だった。記事によると、2008年の通販市場は推定8兆円強で、8兆円弱のコンビニ、7兆4000億円の百貨店を上回るというのだ。 たしかに、自身の消費パターンを振り返っても通販の利用は劇的に増えた。マニアックな本やCDは店舗を経由するよりはるかに早く入手できるし、レアな酒類も最安値を確認した上で購入できる。 しかし、だからといって書店に行く回数を減らしてはいけない。目的の本にたどり着けなくても、読みたくなるタイトルが目に入るはずである。「表紙買い」の衝動に駆られる装丁に出会うはずである。そうした瞬間をきっかけにして、ジャンルの幅が拡がり、教養が深まるのだ。 おまけに、書店に行けば便秘が改善される。書店に行くと便意をもよおす不思議は、その根拠に諸説あるが「インクの匂い説」が有力ではないか。個人的には、古本のインクの匂いが効く〜。 百貨店も然り。時間を有効に使う通販とは対極に位置する消費行動かもしれないが、目的もなくぶらぶらさまよう休日の百貨店も結構愉しいぞ。特に、非生活必需品を見るといい。なくても困ることのない商品とその価格、そしてそれを購入するゆとり人の佇まい。これらの関係性やバランスを肌で感じることで、センスと余裕が身につくのだ。 幼時、母に連れられて行った三越の1階でハチに刺されたことがあった。離れまいとつかんだ母のスカートに、ハチがとまっていたらしい。当時の三越には医務室があり、そこで手当をしてもらった。オレンジジュースまで出してもらった。そんな牧歌的な時代から殺伐とした現代に至るまで、百貨店は常に傍らにあるテーマパークだったのだ。 ピンポイントで商品を購入する通販もいいが、書店や百貨店をぶらり訪ねるひねもす買い物行こそが、人間を豊かにする消費だと思うのである。
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