428.離れて見てみよう(2009.7.13掲載)
知り合いの医療関係者が、「いま、開業して一番もうかるのは眼科と皮膚科」だと語っていた。特に眼科は、老眼と近眼の低年齢化で患者数も増加の一途らしい。 原因はもちろん、パソコン、ケータイ、ゲーム機などの画面を至近距離で凝視することによる眼精疲労である。「テレビは離れて見なさい」という昔日の常套句がむなしく聞こえるほど、現代人は液晶を凝視し続けている。 物心ついた時から液晶画面を近くで見てきた今の小学生にとって、「離れて見ろ」という指示は、ダイヤル式黒電話の使い方がわからないのと同じくらい、理解不能なことなのかもしれない。 しかし、離れて見ることは目にとってかなり重要である。 太平洋戦争中、零戦のパイロットとして64機の敵機を撃墜し、「撃墜王」と称された坂井三郎さんは、毎日遠くの看板の文字を見る訓練を続け、視力2.5を獲得した。レーダーのない時代、誰よりも早く敵機を発見し、太陽を背にして先制攻撃をかけると負けることはなかったという。 また、筆者の同級生M君は小学5年生の時、山と海しかない島の小学校に転校し、遠くの緑と青ばかり見ていたら1年間で0.1の視力が1.5に回復した。 この話を聞いた街の学校のメガネくん達が、校舎の窓に並んで休み時間のたびに遠くの山を見ていた光景が懐かしい。 そして、オスマン・サンコンさんの視力が6.0なのも、祖国ギニアでは近くに視界を遮る物がなく遠くばかり見ていたから。生き延びるためにいち早く彼方の猛獣を発見する必要があったご先祖様の、ありがたい遺産に違いない。 目の健康にアントシアニンやビタミンAが必要であることは当然であるが、それ以上に、遠くを見ること、離れて見ることが重要なのである。 近すぎると見えないことが、離れて見てみるとよくわかる。 あの日の母の小言は、なるほどそういうことだったのか。 世の中のこと、組織のこと、相手のこと…。 とりあえず、離れて見てみよう。
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