430.減塩沖縄行(2009.7.27掲載)
親子三代醤油好きである。 祖父は漬物に醤油をかけた。そして父はカレーに、私は塩鯖に醤油をかけ、そのたびに母の小言を浴びた。 「味付いてますから、余計な醤油は塩分の摂りすぎです」 それでも祖父、父、私が、食卓で醤油ボトルのパス回しを控えることはなかった。栄久庵憲司デザインのキッコーマン醤油差しは、いつも食卓の中心にいたのだった。 我が実家に限らず、日本人は総じて醤油好きである。醤油だけが悪者ではないが、何にでも醤油をかける食習慣は、高い食塩摂取量とそれに由来する高血圧の一因とされている。 日中米英4ヵ国による共同疫学研究INTERMAP(2003)の結果によると、40歳〜59歳の日本人男性2359人の平均食塩摂取量は1日12.3gで、14.3gの中国に次いで2番目に高かった(米国10.7g、英国9.4g)。また、日本人の食塩摂取源は、醤油、漬物、調味料、塩干魚、味噌汁、つゆの順であることが解明された。まるで我が実家の食卓ではないか。 同研究は、1日1gの減塩で収縮期血圧(上の血圧)が1mmHg減少すると報告している。一見わずかだが、国民全体の収縮期血圧が2mmHg減少しただけで、日本における循環器疾患の年間死亡者が2万人以上減少すると推測されているのだ。 わかっちゃいるけど、塩分はなかなか減らせない。醤油はおいしいし、塩気のない食事は味気ない。しかし、塩気がなくても味気が出る方法が1つだけある。だしを効かせるのだ。だしが濃いと薄味でも味がしっかりまとまり、結果的に減塩となる。 味覚センサーを使った実験によると、3%のかつおだしをベースに作った吸い物の場合、だしのない吸い物より約3割低い塩分で同じ塩味を感じるのだ。つまりは3%のだしで3割の減塩。 そして、この「濃いだしで減塩」を唯一実践している地域が沖縄県なのである。沖縄県の1世帯当たりのかつお節購入数量は、年間2778gで全国平均の約7倍(総務省家計調査年報2002)。対して食塩摂取量は、1日9.2gで全国平均の約3割減(健康・栄養研究所調べ)。 ということで、急遽沖縄で現地調査を敢行することになったのである。
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