438.馬のモツと猫の舌(2009.9.28掲載)
食品業界にとって、民主党新政権についての関心事は「福島瑞穂消費者相が何をやらかすか」の一点に尽きる。赤松農水相の言動も心配だが、福島大臣のはしゃぎっぷりを見ていると暗澹たる気分になってしまう。 もちろん、コンプライアンス徹底のご時世、企業の営みにやましいことなど何一つないが、健康油が一夜にして不健康の烙印を押されてしまうわけだから、何が起こっても不思議ではないのだ。 そんなある日、新聞の書評欄で「食品偽装の歴史」という洋書の存在を知った(ビー・ウィルソン著、高儀進訳、白水社)。 評者の黒岩比佐子先生によると、食品偽装の本家本元はイギリスだという。 「19世紀半ばのロンドンの牛乳の半分以上は、水で薄めて小麦粉で濃くした上、染料で色付けされていた」「不味くて飲めないワインを『改良』するために、いろいろなものを混ぜる工夫が行われ、ブドウを使わない偽装ワインまであった」「表面だけを新鮮なもので覆った腐敗肉、牛馬の肝臓を焼いて挽いた粉を混ぜて増量したコーヒー、鉛で着色した菓子」 これはひどい。 そして、当時も告発本があったらしく、化学者アークムは1820年に出版した自著の中で、「深鍋の中に死がある」と謳った。 そういや、ミュージカル「レ・ミゼラブル」の一幕で、悪徳居酒屋の主人テナルディエがこう唄う。 「ハンドルをぶん回しゃ、できるは牛肉もどき。馬のモツ、猫の舌、手作りソーセージだよ」 なるほど、レ・ミゼラブルの原作は1862年出版だから、時代は一致する。 しかし、書評はこう問題提起する。 「偽装品だったマーガリンは安い代用品として定着した」 コストダウンや日持ち延長、栄養強化にノンカロリー。加工食品が時代の求めに応じた高度な加工技術までも、「偽装」と呼んでしまうのか。 「本物とニセモノの間のどこに一線を引くのか。偽装食品の背後から、人間の飽くなき欲望が透けて見える」 読後、すぐ書店に駆け込んだ名書評なのであった。
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