480.油を売る(2010.7.26掲載)
先日、仕事帰りに所用で親戚宅を訪問したのだが、その際、居間に鎮座する怪しい魚油のサプリメントを発見した。 叔父を問いただしたところ、「ボケ防止にDHAを摂っているのだ」と開き直った。そこで、「青魚とかつお節を食べていれば、食事から魚油やDHAを摂取できる」と、その場でレクチャーすることにした。 魚油にはDHAやEPAなど、体にいいとされる不飽和脂肪酸が多く含まれている。対して畜肉系の油は飽和脂肪酸で、健康機能はあまりない。 飽和とは、化合物中にこれ以上水素が結合できない状態で、不飽和は水素が結合する余地がある構造。つまり、不飽和脂肪酸は不安定で、機能性に優れる反面すぐに酸化してしまう。だから魚油は臭い。焼き魚の煙も臭い。 ところが、江戸時代の庶民はこの臭くて煙の出る魚油を毎日燃やしていた。行灯の油である。菜種油なら臭みは少ないが、価格が魚油の2倍もするため使っているのは遊郭ぐらい。蝋燭はさらに高価で、悪代官か殿様の邸宅にしかなかったのではないか。 明るさは魚油や菜種油が豆電球くらいで、蝋燭はその約5倍。庶民は日が暮れると特にすることがなかったから油で十分だが、武家屋敷での密談には蝋燭の明かりが必要だったのだ。 そして、行灯の下部には急須のような油差が置かれていた。油がなくなればこれでつぎ足し、空になれば油売りの行商人から量り売りしてもらった。 油売りは、量った最後の一滴まで油を油差に入れなければならず、油のしずくが切れるまでにはかなりの時間を要した。その間を世間話でつないだのだが、傍目には無駄話でさぼっているようにも見えた。これが「油を売る」の語源である。 食事から魚油を摂取する利点を叔父に語っていたら、あっという間に1時間が経過していた。 思わぬ所で油を売ってしまった仕事帰りなのである。 ================================================================ 行灯情報の出典は、クリナップホームページ「江戸散策」のコーナーです。
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