497.オオカミキャベツ(2010.11.29掲載)
市街地にクマ出没というニュースを他人事として聞き流していたら、似たような恐怖を体験してしまった。 我が実家の玄関前の道で、イノシシに突撃されたのだ。 実家があるのは繁華街から車で5分の住宅地で、片側3車線の幹線国道沿い。動物の気配など全くない午後9時に、前方から体長約1メートルのケモノがダッシュしてきて、硬直する私のすぐそばを通過していったのである。 絶対に犬ではなかったが、この「武勇伝」なかなか信じてもらえない。 「そんな所にイノシシがいるわけないでしょ」 このままだとオオカミ中年になってしまう。 ふと、最近雑誌で読んだ「オオカミキャベツ」の話を思い出した。 一般的に植物が葉をチョウやガの幼虫に食われると、化学物質を放出してその幼虫の天敵であるハチなどの助けを呼ぶ。そして、幼虫の数が多い場合は、一刻も早くハチに来てもらうべく、より多くの化学物質を出す。 しかしキャベツは、コナガというガの幼虫に食われた場合、その被害の大きさにかかわらず大量の化学物質を放出するらしいのだ。実際より大げさなSOSを出すことから、研究者はこれを「オオカミ少年シグナル(wolf cry)」と名付けた。 ちなみに、キャベツの原種に近いケールにはオオカミ少年シグナルを出す能力がないらしく、正直者ケールよりオオカミキャベツの方が生存に有利ということになる。ただし、キャベツの嘘がハチにバレるまでの間であるが…。 そんな世渡り上手なキャベツの心配をした翌日、地元の新聞に身の潔白を証明する記事が掲載されていた。 「イノシシ衝突、女性がケガ」 あぁ、オオカミ中年にならずに済んだ。 安堵したら、なんとなくキャベツが食べたくなって焼鳥屋さんの暖簾をくぐった。 キャベツの生きざまに思いを馳せた秋の夕暮れであった。 ================================================================ オオカミ少年シグナルの出典は、日経サイエンス2010年11月号です。
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