505.蕨と御徒町(2011.1.31掲載)
「蕨−御徒町」 今から25年前、生まれて初めて買った定期券で難解な2つの漢字を学んだ。雰囲気で読むと「いちご」と「ごとちょう」みたいな感じだが、正解はもちろん「わらび」と「おかちまち」。京浜東北線にしては風情のある駅名を往復する、片道30分の通勤だった。 「蕨」 石ばしる垂水の上のさわらびの 萌え出ずる春になりにけるかも 志貴皇子 岩の上を激しく流れる滝のほとりに小さな蕨が可愛く萌えている。もう春が来たのだ。寒さゆえ、衣を更に着ることから2月を「きさらぎ」と呼ぶが、寒さの中にも春の準備は始まっているのだ。 う〜ん、美しい。蕨萌えの情景が目に浮かぶようだ。 しかし、である。現実のJR蕨駅前はそんな詩的な情景とは縁遠く、「キューポラのある街」川口市の雰囲気に飲まれてしまっている。蕨市のホームページを覗いてもマスコットキャラクターは「ワラビーくん」だし、市の草花はニチニチソウ。早蕨との縁はかけらもない。 来歴は、どうやら「藁の火=わらび」。蕨萌えではなく、藁火燃えだったようである。 「御徒町」 御徒町という町名は1964年に消滅してしまい、現在は駅名にその名を留めるのみ。地名的には台東区台東か東上野である。江戸時代、騎乗が許されない下級武士が内職をしながら長屋住まいをしていた町だった。 松山城の近くにも下級武士の町があるが、こちらは「歩行町(かちまち)」。いくら馬に乗れないからといって、「歩行」ではストレートすぎる。「御徒」くらいが上品でいい。 如月の次は、いやおい(弥生)繁る3月。雪割り山菜のパワーと御徒の心意気で、新年度を目指す所存である。 ================================================================ 早蕨情報の出典は、三越お帳場通信2011年2月/3月号です。
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