507.こども店長(2011.2.14掲載)
私の実家は、田舎で小さな化粧品店を営んでいた。 コンビニもドラッグストアもなかった昭和40年代、商売はそれなりに順調だった。 小学生の私も時々店番を任されることがあったのだが、すぐ斜め前に女子高の寮があったりして、結構かわいがられる「こども店長」だった。 店番をしていた小学校3年生のある日のこと、近所に住む同級生がライオンの「エメロンシャンプー」を買いに来た。1本150円だったのだが、自身の判断で5円値引きし同級生価格145円で販売した。後で母親にしこたま怒られた。 「5円儲けることがどれだけ大変かわかっているのか」と。 顔から火の出る思いで同級生宅に5円を回収に行き、以来、こども店長が店番に立つことはなかった。 小学生に売価管理を任せられないのは当然であるが、最近、チェーン店の店長に本部が権限委譲し、個店の運営を任せて成功する事例が増えている。 みずほ総合研究所発行の月刊誌「Fole」2011年2月号に、「不況、競合、コストに立ち向かう『奮闘店長さん』」という特集記事があった。一国一城の主が権限委譲を意気に感じ、知恵を絞った結果の成功譚である。 酒類ディスカウント店長…会社が売りたい商品の品揃えを7割におさえ、後の3割は店で売りたい商品をPOPと共に並べて独自性を出す。 居酒屋店長…チラシのポスティングでは効果がない。店長が戸別訪問して常連客を増やす営業活動を週に1、2度、2〜3時間かけて実施。 書店店長…店長の一押しコーナーでベストセラーではない本を売る。レジに立ち、お客様が手にした本を通してお客様の人生を見る。これが商売の楽しみ。 量販店店長…自らが歩いて確かめた商圏の客層分析をもとに、1日のうちで品揃えを変化させる。午前/高齢者→午後/主婦→深夜/若年層。 こども店長…もしあの日、権限委譲してエメロンシャンプーの5円引きを母親が認めていたら、私が商売の後を継いだか、はたまた店をたたむ羽目になっていたか。 みずほ銀行のレポートがきっかけで、詮無い思い出話が脳裏を去来したのであった。 ================================================================ 懐かしのエメロンシャンプー、現在は廃盤です。
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