517.鰻と白めし(2011.4.25掲載)
日本経済新聞社が発表した「2010年度技術トレンド調査」のランキングを見た。食に関する2つの技術が同ポイントで2位に輝いていた。 この調査は、2009年12月から2010年11月の間に国内の研究機関が公表した新技術237件を大学の研究者などが評価するもので、1位はマウスの体内でiPS細胞を使用して膵臓を作成した事例だった(東京大学、科学技術振興機構)。 iPS細胞という超最先端のテーマに次いでランクインした食の技術とは…。 まずは、「ウナギの完全養殖に成功(水産総合研究センター)」。 同センターは人工孵化して育てたウナギをホルモンで人為的に成熟させ、精子と卵子を採取。ここから作成した25万個の受精卵のうち、10万個から2代目が元気に育ったのである。 現在のウナギ養殖はシラスウナギ(稚魚)の採取に100%依存しており、採量の変動は避けられない。悲願の完全養殖で、国産ウナギの蒲焼きが低価格で食せる日も近いのである。 続いて、「収量を4割増やすイネ遺伝子を特定(名古屋大学)」。 名古屋大学芦刈教授らは、稲穂の枝数を制御する遺伝子「WFP」を見つけ、組み替えではなく交配でこの遺伝子を導入し、米粒の数を41%増やすことに成功した。 通常の品種改良では米粒の数を数%増やせば大成功とされる中、穀物全般に応用できそうな画期的食糧危機回避策が登場したのである。「芦刈」という教授のお名前的にも安心感漂う成果である。 以上2件、お気づきの通り、iPS細胞に続いた食の技術は「鰻と白めし」である。最先端の科学技術を何気ない日常生活に閉じこめる。これが日本のお家芸なのだ。 かつて、米国で実用化の壁にもがいていたカーボンファイバーに、釣り竿やゴルフクラブという活躍の場を与えた日本の応用技術。軍事産業では考慮されない低コストや量産化が成功のカギとなった。 そして、2011年度のランキングにはぜひ「地震予知」を望みたい。とにかく安心して鰻と白めしが楽しめる日常を、切に望むのである。 ================================================================ 技術ランキング情報の出典は、日経サイエンス2011年4月号です。
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