524.ドコモのスマホ(2011.6.13掲載)
先日、東急東横線の車中でほほえましい光景に出くわした。 世界史の教科書を広げて予習していた2人組の女子高生が「シャンポリオン?シャンペリオン?何した人だっけ。う〜ん」と悩み始めた。傍らで立ち聞きていたガリ勉タイプのメガネくんが、躊躇しながらも「それはシャンポリオン。ヒエログリフを解読した人」と会話に絡んだ。「あ、ありがとうございます」。 がんばれメガネくん。 次の駅で、2人組女子高生のうちの一人が降りた。チャンスだ。 待て待て、ここですぐにアプローチしないのが青春の証。5分ほどの沈黙の後、メガネくんが動いた。「となりいいですか?」「はい」。 GO!メガネくん。 「ヒエログリフは紀元前3000年頃のエジプト象形文字で、19世紀にフランス人学者ジャン=フランソワ・シャンポリオンがロゼッタ・ストーンの解読を行うことで読み方を解明したんです」 なるほど、いいぞメガネくん。 「数千年違えば、同じ地域でも言語はまったく別ものになります。古文、漢文も然り。だから、いま公開中の『100,000年後の安全』という映画がおもしろいんです」 「10万年後の安全?」 「はい。危険性が10万年続くとされる高レベル放射性物質を地中深くに埋め込む話です。10万年といえば石器時代から現代に至るスパンです。ヒエログリフ以上ですよ。10万年間そこが危険だと警告し続けることは可能でしょうか。文明が変われば文字もイラストも通じないかもしれません。未来人が金庫と勘違いして発掘したら大変ですよ」 熱すぎるぞメガネくん。クールダウンだ。 「10万年の間には宇宙人の接触があるかもしれません。天の川銀河にある2000億個の星の中には、検出可能な文明が1万くらいあるとドレイク博士が語っています」 メガネくんオーバーラン。 「は、はい。私降ります。ありがとうございました」 見知らぬ男子高校生に感情移入してしまった。ああ、青春の蹉跌。そして、カバンの中の新聞には「ドコモのスマホで不具合」の見出し。 ドコモのスマホなんてわけのわからないフレーズ、100年経てば間違いなく通じない言葉になると確信した昼下がりなのであった。 ================================================================ 「100,000年後の安全」は、フィンランドが舞台です。
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