531.涙のフェロモン(2011.8.1掲載)
「男は女の涙に弱い」とよく言われるが、正確には「男は女の涙で弱る」の方が正しいかもしれない。「泣かれると弱っちゃう」のである。 このことを、イスラエルの研究グループが実験で証明した。 女性に悲しい映画「チャンプ」を見せ、その時流した涙をコットンに吸収させて男性の鼻の下に貼り付け、感情の変化を観察したのだ。 結果、涙を貼り付けられた男性は、性的感情、覚醒度合い、神経活動、男性ホルモン(テストステロン)量の全てが低下してしまった。 涙に匂いはないが、涙に含まれるであろうフェロモン様物質の効果で男性が弱ったのである。 化学者目線で考えると、この実験の展開としてはフェロモン様物質の構造決定や分泌メカニズムの解明などがあげられるが、世俗的興味として悲しい涙ではなく、ミュージカルに感動したり、なでしこジャパンに歓喜したりして流した涙で男性がどうなるかを知りたい。 それは詮無い願望として、男性(オス)の涙で女性(メス)がどうなるかをマウスで検証した事例ならある。東京大学の東原教授は、オスマウスの涙腺から分泌されるESP1というペプチドが、メスマウスの性行動を増長させることを確認したのだ。 残念ながら人間に涙のフェロモンはない。マウスにしたって、研究室で何世代も飼育しているとフェロモン分泌能力が消滅してしまう。涙は、ワイルドな動物野郎のみが持つフェロモンなのだ。 ならば人間も原始に還り、ケータイもコンビニもLEDもない寒村で暮らせばフェロモンを出せるようになるのではないか。何世代も先の気の長い話ではあるが。 ちなみに東原先生は、前述のESP1を「マウスの繁殖効率をあげる物質」として特許申請した。この特許を香水メーカーあたりが応用し、人間用フェロモンが発売される日が来るかもしれないと期待するのである。 ================================================================ 涙フェロモン情報の出典は、「化学と生物」2011年7月号です。
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