539.コーラ療法(2011.10.3掲載)
コーラを飲むと歯が溶ける。このフレーズ、誰もが一度は耳にしたことがあると思う。小生も、幼時この「迷信」にちょっとだけビビり、コーラは1日1本と決めていた。 歯や骨はリン酸カルシウムでできており、確かにリン酸カルシウムは酸に溶ける。しかし、人間の体はそんなにやわじゃない。コーラや炭酸飲料ごときの酸成分で歯が溶けることはないのだ。コーラメーカーにとっては迷惑な迷信である。 ところが、医療の現場でコーラを使用した迷信のような治療効果が報告されている。コーラが胃石を軟化したのだ。 胃石は胃の内部にできる石のような固まりで、食物残渣や毛髪などが集積してできるとされている。大きな胃石になると腸管で詰まって腸閉塞を引き起こすこともあり、硬くて粉砕できない時は外科手術も覚悟しなければならない。 そこでコーラである。 神戸百年記念病院の前川医師は、4センチ大の硬い胃石を生じた80歳代の患者にコーラでの治療を試みた(患者が糖尿病だったこともあり、実際はダイエットペプシを使用)。 就寝前と翌朝に計2リットルを飲ませ、昼に内視鏡で観察すると、果たして胃石は軟化していた。さらに2リットルを追加で飲ませたところ、翌朝内視鏡下で細かく破砕できたのだ。胃石の成分は98%がタンニンだった。 不思議なことに、コーラの前に試した同量の炭酸水では胃石の軟化が見られなかった。とすると、コーラ特有の成分が効いたのか。 前川氏は「機会があれば炭酸の抜けたコーラで試したい」と語っていた。それで効いたら主役は炭酸ではなく、紛れもなくコーラということになる。 前川氏は海外の論文でこのコーラ療法を見つけたらしいが、最初に試した医師は幼き日の「あの迷信」を思い出してコーラを手に取ったのだろうか。 きっかけは何でもいい。 迷信から医療が生まれることもあるのだと思った。 ================================================================ コーラ療法の出典は、日経メディカル2011年3月号です。
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