543.人ごみの功罪(2011.10.31掲載)
東京滞在期間が長くなり、なんとか都会のスピードにも対応できるようになってきたが、雑踏の人ごみと満員電車の人いきれだけはいつまでたっても慣れることがない。 この混雑のストレスが脳の働きにどう影響するのかを、ドイツの研究者が調査した。大都市と小都市と田舎の被験者に標準的な心理ストレス試験を受けてもらい、その際の脳の活動状態を分析したところ、大都市住人の「扁桃体」がかなり活性化されていたらしい。 扁桃体は快不快や好き嫌いを判断する部位であり、別の研究によると、パーソナルスペース(他人に近づかれると不快に感じる空間)を侵されると活性化することがわかっている。混雑との関係が示唆されたのだ。 結論「都会の人ごみに揉まれている人は、扁桃体がアクティブ」。 で、扁桃体がアクティブだと何がいいのかというと、それは記憶力。 そもそも、脳における記憶のキーマンは「海馬」であり、日々飛び込んでくる膨大な情報を「短期記憶」と「長期記憶」に仕分けて大脳皮質に送っている。数分しか持たない短期記憶に対し、何年間も覚えているのが長期記憶だが、この記憶の長期化を決定しているのが海馬の隣にある扁桃体なのだ。 好き嫌いを判断する扁桃体が海馬とリンクすることにより、記憶が定着する。好きな先生の授業の成績がよくなるのも、恥ずかしい記憶がなかなか消えないのも、扁桃体と海馬の連携で記憶力が向上したからである。 さらに、扁桃体は社会性にも深く関わっている。人の顔を区別したり、表情を読み取ったりする認知能力ともリンクしており、ビジネス的にも重要な部位といえる。 顔の記憶能力が極端に悪い小生、混雑のストレスで扁桃体が活性化され、名刺の二度出しが避けられるのであれば人ごみもメリットありだな。 ドイツの研究者のおかげで、少しだけ満員電車に耐えられそうな気がした次第である。 ================================================================ 扁桃体情報の出典は、日経サイエンス2011年11月号です。
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