551.縁起物(2012.1.10掲載)
今から5年程前、小生らの研究チームは数の子に抗腫瘍活性が存在することを証明し、学会で発表した。超拡大解釈すれば、「数の子を食べるとガンにならない」ということであり、さらに超楽観的展望だと、「数の子から抗ガン剤ができる」という夢物語である。 現実的には、子孫繁栄の縁起物としてお正月に数の子を食べる習慣を科学的に証明しただけであるが、以来、おせち料理の数の子をじっくり噛みしめて味わうようになった。 そして、今年はわかめも噛みしめた。 貴重なミネラル供給源であるわかめは、万葉時代にまでさかのぼる縁起物でもある。北九州市の和布刈(めかり)神社では旧暦元旦の未明に三人の神職が関門海峡のわかめを刈りとって神前に供える「和布刈神事」が行われていて、710年には神事で供えられたわかめが朝廷に献上されたとの記述が残っている。 また、万葉集にはわかめを含む海藻を詠み込んだ歌が100首近く残されているが、その多くは男性が女性に向けて詠む歌に使われている。 「比多潟の 磯のわかめの立ち乱え 我をか待つなも 昨夜も今夜も」…比多潟の磯のわかめのように、思い乱れて私を待っているのだろうか。昨夜も今夜も。 めらめら燃える恋心を、ゆらゆら揺れるわかめになぞらえたのだろうか。 ならばということで、海藻から燃える水=石油をつくろうとしている研究者たちがいる。筑波大学の渡邊教授が「オーランチオキトリウム」で、神戸大学の榎本教授が「榎本藻」で夢に挑んでいるが、現時点では培養液1リットル当たり3〜5gの油分が取れる程度で製造コストは1000円/L(榎本藻の場合)。これは石油の約20倍。 基礎技術があってもスケールアップが苦手というのが日本の実情だが、エネルギー問題解決のためにもぜひ燃える心で挑戦してもらいたい。 数の子を食べて不老長寿を願い、わかめを食べて新エネルギーを想った初春なのである。 ================================================================ 石油生産海藻情報の出典は、WEDGE2011年10月号です。
|
column menu
|