557.TPP議論の前に(2012.2.20掲載)
相変わらずの円高である。 原材料の輸入依存度が高い加工食品を販売していると、必ず「円高メリットあるでしょ」という値下げ圧力に遭遇するが、激安戦争のただ中にいる弱小企業は「もう勘弁してくださいよ」という泣き言しか返す術がない。 とにかく、円高メリットなど吹っ飛ぶほどの原材料高で、特に水産原料の高騰が激しい。理由はいろいろあるが、肉食文化圏にヘルシーな魚食文化が浸透したことや、生活レベルが向上した「爆食中国」が水産品を買い漁っていることなどが挙げられる。 ところで、加工食品に限らず、わが国には日々の生活全体で円高メリットを実感できない構造的な原因があることをご存知だろうか。それは輸入品の少なさである。 国内に供給される全てのモノの中に占める輸入品の割合を「輸入浸透度」というが、日本はこの指標がOECD加盟34カ国中最下位で、わずか9.6%しかない(2010年)。ちなみに韓国は30%にも達するから、ウォン高になった際の体感は大きいはず。ならば個人的に円高差益を享受しようと、個人輸入が急増しているのである。 一方、輸出はどうかというと、全輸出額こそ7820億ドルでドイツ、中国、米国に次ぐ世界第4位だが、農産物に限るとたったの27億ドルで21位。九州とほぼ同面積の小国オランダが790億ドルで第2位なのだから、日本の農業政策の失態と言わざるを得ない(2008年)。 品質の高い日本の農産物が日本食ブームの海外でなぜ売れないのか。それは、豊かで大きな国内市場に安住した結果、農業の産業化と海外市場の開拓が遅れたからに他ならない。 あわてた農水省のお役所仕事でマーケティング戦略のないまま輸出促進した挙句、アラブ首長国連邦のアンテナショップで1個3800円の梨や1900円の柿を売って失笑を買ったのである。 輸入品が少なくて円高の恩恵がなかったり、高品質の農産物に輸出競争力がなかったり。 TPP議論の前に、島国ニッポンを再認識した次第である。 ================================================================ 輸出入情報の出典は、「WEDGE」2012年1月号です。
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