568.真鯛(2012.5.7掲載)
今から20年程前、天皇皇后両陛下が愛媛に行幸され、県の魚である真鯛の稚魚を伊予灘に放流された。 その時に、ありがたい御歌を詠んでいただいた。 「県の魚まだひの稚魚を人々と共に放しぬ伊予の海辺に」 そして、さらにありがたいことに我々が御一行様のお土産を献上する栄誉を賜ったのだが、これが超難題。「常温で6ヶ月間日持ちする真鯛の粕漬け」という勅命だった。 おめでたい真鯛のおめでたいお土産。失敗するわけにはいかなかった…。 平安時代、宮中に献上される鯛は干物や塩漬けが中心。内陸部である京都までの物流を考えると、献上品は同じく縁起のいい鯉に分があった。 戦国の世を経て江戸時代になると、武家社会では鯛の方が重要視されるようになり、江戸は鯛(大位)、京は鯉(高位)と二手に分かれたのである。 江戸後期の食材番付「包丁里山海見立角力(ほうちょうりさんかいみたてすもう)」を見ても、東(海産物)の大関が鯛、関脇がハモで小結がカツオと記載されており鯉は上位にない(フグやマグロは下等な魚「下魚」でランク外)。ちなみに、西(農産物)は大関が椎茸で関脇が大根だった。 そんな真鯛の養殖生産量は、愛媛県がシェア約6割でダントツ1位。県魚の名誉にかけても、玉体を煩わせた御恩に報いるためにも、真鯛の粕漬けは成功させなければならなかったのだ。 そして、たっぷり糖類を配合して、もちろん保存料などという不敬な食材を使うことなく常温6ヶ月品が完成した。 パッケージに宮内庁御用達と入れたくて、役所に問い合わせた。「御用達制度は戦後廃止されました」とのつれない回答だった。 ================================================================ 「包丁里山海見立角力」情報の出典は、クリナップ社のホームページです。
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