569.笑うラット(2012.5.14掲載)
遺伝子研究51年の大家、筑波大学名誉教授村上和雄先生の業績の一つに「心と遺伝子の相互作用」という研究テーマがある。 これまで、熱、圧力、運動などの物理的要因や飲酒、喫煙、環境ホルモンなどの化学的要因が遺伝子に作用するとされてきたが、村上先生は第3の因子として「心」に取り組んだ。それも「笑い」。 ショック、不安、恐怖、怒り、恨みなどのネガティブな要因でスイッチが入る遺伝子はろくなもんじゃない。ならば、笑い、感動、興奮、喜び、感謝、愛情、祈りなどのポジティブな要因をテーマにしよう、というのが村上先生の動機に違いない。 そして、笑いが遺伝子発現を調節し、血糖値の上昇を抑えることを突き止めたのだ。しかし、詳細な分子メカニズムは不明であり、笑いが作用するのはインスリンではなく中枢神経系か自律神経系ということが示唆されただけ。 そこで登場するのが、笑いの作用を詳細に解析するために開発された「笑うラットモデル」。ねずみが笑うのである。 具体的にはラットが発する超音波を検知する。恐怖などの不快な刺激に対しては20kHz、喜びなどの快の刺激に対しては50kHzの超音波を発することが知られており、ラットをくすぐって笑いの状態を作り(50kHzの超音波発生)、遺伝子がどう発現するのかを解析するらしい。 成果が楽しみであるが、もう一つ村上先生に作成してもらいたいラットモデルがある。それは、「マザコンラット」。 米国ウィスコンシン大学マディソン校のストライヤー教授らは、「キタムリキというサルは、母親と一緒に行動するオスのほうが交尾の成績が良好」という観察結果を発表した。「母親のそばで過ごしているとメスの発情期を見分けられるようになるのかもしれないし、単に他のメスと親しくなりやすくなるのかもしれない」とストライヤー教授。 この真偽をマザコンラットで検証してみたいのだ。 天才にはマザコンが多いというが、モテ男もマザコンなのか。 ラット実験で「ほんまでっか」な成果が得られることを期待する今日この頃である。 ================================================================ ストライヤー教授情報の出典は、「日経サイエンス」2012年4月号です。
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