570.たのもしい酵母(2012.5.21掲載)
日経新聞がこの1年の主要な技術開発成果を評価する、2011年度「技術トレンド調査」を発表した。 総合1位は、東北大学が開発したハードディスクの記録密度を7倍にできる新型磁気ヘッド。世界最高の読み取り能力で、実用化目前らしい。 そして、今回のランキングで興味深いのは、酵母を使用する技術が2件登場していること。 まず、総合6位にランクインした大阪大学と理化学研究所の「酵母によるグリチルリチン酸の生産」。これまで、カンゾウ(甘草)から微量しか取れなかった機能性成分グリチルリチン酸を酵母にたくさん作ってもらう技術。具体的には、グリチルリチン酸を生成するカンゾウの遺伝子を特定し、その遺伝子を酵母に組み込むのだ。 技術の高さもすばらしいが、それ以上に、産地が中国に限られるカンゾウに頼らずしてグリチルリチン酸を得るメリットは大きく、外交上あっぱれな成果なのである。 次に、実用性と新規性で5位に入ったキリンホールディングスの「L−乳酸をキシロースから生産する酵母」。生分解プラスチックの原料となるL−乳酸を、木質系素材に多く含まれるキシロースから大量に生産する酵母を開発したのだ。これも、遺伝子導入技術を活用している。 すごいぞ酵母。さらに、医療の世界でも高価な医薬品を酵母が生産しはじめており、もしかしたら、レアメタルなんかも生産してくれたりして…。 思えば人類は太古より酵母のお世話になりっぱなしである。紀元前7000年頃にアルコール発酵が始まり、紀元前3800年にはパンづくりにも関わった。 そして、近年では旨味調味料としての酵母エキスが幅をきかせ、「酵母エキスは食品扱い」という法律上のメリットを生かして多くの無添加食品に配合されている。 発酵生産→調味料→遺伝子導入生産と進化してきた酵母の行く末や如何に。 鉄腕アトムの世界には描かれていない地味な技術だが、未来を変える可能性を秘めた、たのもしい酵母なのである。 ================================================================ 技術トレンド調査情報の出典は、「日経サイエンス」2012年4月号です。
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