572.ピンクのネット(2012.6.4掲載)
つくば市にある国の研究機関、食品総合研究所で食の感性に関する研究が進んでいる。 具体的には、味、におい、食感、外観、偏見、事前情報、食卓同席者等のさまざまな要因が、食の認識にどのような影響を与えるのかを調べる研究。実験心理学という手法で、人間の心と食の関わりを検証するらしい。 食品の購買行動に直結する人間の心理が明らかになるのであれば、これは見過ごせない。気になる成果の一部を紹介する。 におい(嗅覚)…嗅覚は、記憶に直結する度合いが最も高く、生い立ちや生活環境で大きく嗜好が異なってくる。例えば、ワカサギと茎ワカメを切って水に浸した溶液のにおいを嗅ぐと、海辺で育った人の多くは「磯や海苔のにおい」と好意的に受け止めるのに対し、内陸部で育った人の多くは「腐敗、下水のにおい」と不快に感じてしまう。 食感(触感)…もちもち、パリパリ、ふんわり等、日本語には食感を表現する単語が445語もあり、これはフランス語の3倍、中国語の2倍。そして、その内の7割が「オノマトペ」と呼ばれる擬音語、擬態語。短歌の世界で作品に広がりを持たせる際の必殺技である。 「サキサキとセロリ噛みいてあどけなき汝を愛する理由はいらず」佐佐木幸綱 「君かへす朝の鋪石さくさくと雪よ林檎の香のごとくふれ」北原白秋 外観(視覚)…霊長類の色彩感覚は熟した果実を検出するために発達したと考えられており、人間の視覚による食品の認識も進化の過程で培われてきたのだ。 だから、食材の彩り、盛りつけ、食器のセンスは大事。 量販店に並ぶミカンやオクラを包む赤や緑のネット。あれは、「色の同化」という錯視で食材の色を鮮やかに見せるためのテクニックである。 食卓同席者…女性が男性と一緒に食事をする場合、より低カロリーの食品を選択しやすいらしい。低カロリー食品は女性的というステレオタイプ的認知に由来する、印象操作である。 ピンクのネットで包んだふわふわの花かつおを、低カロリー食品として同伴の卓上に提供しようと目論む今日この頃である。 ================================================================ 実験心理学情報の出典は、「FFIジャーナル」2012年第2号です。
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