573.知覚の限界(2012.6.11掲載)
NHKアーカイブスで昔のドキュメンタリー番組を見ると、アナウンサーの話すスピードがものすごく遅いことに違和感を覚える。 アナウンサーの話す速度は時代とともに速くなり、昭和40年代の毎分300語が、現代は毎分400語以上になっているのだ。 一般的に話す速度が遅いと「説得力がある」と見られ、速いと「積極的」という印象が増す。だから、プレゼンのトーク速度も重要で、自分自身は毎分370語前後になるよう心がけている。そして、聞き手が小学生や高齢者の場合、伝わりやすいように毎分300語近くまで速度を落とす。 ただ不思議なことに、速度を落としたからといって伝わる内容が少なくなるわけではなく、単語や文節をやりくりした省エネトークで折り合いを付ける。 これと同じ現象を言語間で研究したリヨン大学ペレグリーノ博士らの成果が公表されている。7つの言語(日本語、英語、中国語、フランス語、イタリア語、ドイツ語、スペイン語)を解析したところ、日本語とスペイン語が最も早口で中国語が最も遅い言語だが、会話の情報はどちらも同じ速度で伝わることがわかったのだ。 世界には多様な言語が存在するが、人間の知覚システムに合わせて全て一定の速度で情報を伝えるようになったからだとか。だから、プレゼンの時間が押しているからといって早口でまくし立てても、結局受け手のキャパは同じ。 ゆっくりシンプルに伝えようではないか。 最後に、パッケージの事例を紹介する。大豆製ハンバーガーのパッケージ前面に記載されている文章に関し、短い文と長い文の2つを提示して消費者の理解度を比較した。 短い文…「大豆タンパクは心臓疾患のリスクを低減させる」。 長い文…「飽和脂肪とコレステロールの少ない食事を摂るなかで1日に25グラムの大豆タンパクを摂取すると心臓疾患のリスクを低減させる」。 短い文の方が理解度が高かったのは当然である。 ================================================================ ペレグリーノ博士情報の出典は、「日経サイエンス」2012年6月号です。
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