576.農学栄えて農業滅ぶ(2012.7.2掲載)
農学栄えて農業滅ぶ 本稿タイトルの「農学栄えて農業滅ぶ」は、東京農大の初代学長である横井時敬氏のことば。日本の農業教育は、「農業関係者の育成ばかりで農業経営者を育てる視点に欠けている」という先人の警句であり、まさに、現在の日本農業の姿を予見している。 問題の根本は、大学農学部の多さ。現在、農学あるいはそれに類する学部、学科を持つ大学は国公私立を含めて約60校(たぶん世界一)。これに対して、農産物輸出額世界第2位のオランダの農業大学は、ワーゲニンゲン大学ただ1つ。 また、アメリカ最大の農業生産額(全米の12%)を誇るカリフォルニア州に、農学部のある大学はカリフォルニア州立大学しかない。 日本は農学部が多すぎる。 だから、自然、農業関係者が多くなる。 例えば、農協職員25万人、農林水産関係の地方公務員3万7千人、土地改良団体の職員1万1千人、農学部の教員3千6百人等々で総数31万5千人。 対して、主業農家(農家所得の50%以上が農業所得で、年間に60日以上自営業に従事している65歳未満の世帯員がいる農家)の数は36万戸。職業的に農業を選択する農家とほぼ同じ数の農業関係者がいるのだ。 さらに問題の根は深い。現代の我が国において、「農家」と分類される世帯の大多数は経済的に農業に依存していない。その中で、TPP反対などの農政問題を声高に叫ぶのは、「農業関係者」たちなのである。農民の困難や貧しさを語り続けることによって、自らの居場所を確保しているのだ。 その反動からだろうか、大学の学科名から「農」の字が消えてしまった。我が母校の例だと、農芸化学科→応用生命化学科、農業土木科→地域環境工学科、農業経営学科→資源・環境政策学科等々。 何ともわかりにくい。学科名を変えたところで卒業生が農業関係に職を求めることに変わりはない。 農学栄えて農業滅ぶとならないためには、「農学部百姓学科」を創設するしかないのかもしれない。
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