577.盲腸下屋敷(2012.7.9掲載)
盲腸下屋敷 米国デューク大学医学部のパーカー教授は、虫垂(盲腸)の知られざる機能について自身の仮説を発表した。 とかく邪魔者扱いされ、「クジラに残っている後ろ脚の骨のような過去の遺物」と揶揄される虫垂に光を当てたのだ。 パーカー教授の説によると、虫垂は腸内善玉菌の「天然の保存庫」として働いている。例えば、コレラなどの重い腸感染症にかかると腸内の善玉菌が激減するが、虫垂が避難所として機能し、善玉菌を保存しているおかげで健康な状態にいち早く復活するというのだ。 事実、ウィンスロップ大学病院で、クロストリジウム・ディフィシルという菌由来の腸感染症にかかった254人の患者を調べたところ、虫垂のある患者のディフィシル菌再発率が18%だったのに対し、虫垂がない患者では45%にも上った。一見つまらない臓器で、炎症を起こすとすぐに切除されてしまう虫垂に立派なバックアップ機能があったのだ。 話は大きく変わるが、東京での休日街歩きを通して、江戸下屋敷に虫垂のようなバックアップ機能があることを知った。 ご存知、江戸時代の参勤交代システムは、大名が国元で1年過ごした翌年に、江戸で1年過ごすという天才的景気向上策。大名行列の衣食住に加え、街道や宿場が整備される2次的効果もすごい。 そして、江戸滞在中に大名が暮らす邸宅が上屋敷で、東京事務所的役割が中屋敷。別荘かつ災害時の緊急避難場所的役目を負っていたのが、下屋敷ということになる。まさに虫垂である。 ちなみに、郷里の伊予松山藩上屋敷は現在の慈恵大学病院、中屋敷は三田のイタリア大使館、下屋敷は戸越銀座商店街あたり。 本来、地方大名の財政を疲弊させることが目的の参勤交代が、無駄消費の果ての経済効果を生み出したように、無意味そうな虫垂が人類を救うこともあるのだ。 ぶらり街歩きも案外役に立つのである。
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